YAMAHA SEROW 225WE (4JG6)

☆ メンテナンス編 ☆

クラッチ交換記


さぁて、バラしますよ
 

<2007年2月>

  まずは確認からでしょう

 何時の間にやら総走行距離が25000kmを超えたセロー。
 
 購入当初から「切れ」と「繋がり」は良かったものの、ちょっとだけ「そんな雰囲気」のあったクラッチがじりじりと滑り始めた

 5、6速の高回転から更にスロットルをガバあけすると、速度はそのままで回転だけが上がってしまうのだ。

 これは典型的なクラッチすべりの症状で、放っておくと次第に下のギアでも発生するようになる。
 
 そして最後には発進・加速不能となってご臨終。
 以前V-Maxで経験したのとほぼ同様の現象である。

 距離に加え、そこそこ走らされていた(と思われる)状況、250cという排気量を考えると、確かにそろそろ交換時期かもしれない。
 まぁクラッチの寿命というのは乗り方によって大きく左右される物なのだけれど。

 ところで、クラッチに関しては一つ不思議な事がある。
 前に書いたとおり、クラッチレバーの繋がる位置が遠いのだ。

 レバーに遊びがまったくない。
 ショートレバーからノーマルレバーに戻したのでレバー比が変った可能性はあるのだが(一応RALLYショートレバーの能書きには「変りません!」とある)いずれにせよ、ノーマルレバーで遊びがないというのはどうにも変だ。

※もちろんこの「遊びがない」というのは、クラッチケーブルを調整したうえでの話 <いろいろ交換記参照>

 今、クラッチが滑っている原因は、本当にクラッチ(フリクションプレート)が減っているからなのだろうか?
 もしかするとクラッチレバーを離しても、すこし切れた(滑った)状態になっているのではないだろうか?

 ううむと呻きながら、以前買った「セローファイル」そしてこの前買った「セローマスターブック」(←いや、本屋にあったのでつい…)、そしてもちろんネットで調べてみる。

 すると、どうやらクラッチハウジング内にも調整する部分があるらしい。

 プッシュロッド(クラッチレバーを握ると押し出される棒。これでクラッチ⇔フリクションプレート間に隙間を作る)の動作範囲を直接調整する方法で、設定確認の目安としては、「プッシュレバーポジションの位置をクランクケースのマーキングに合わせる」とある。
 
 どれどれとうちのセローを確認する。
 
 「え~、クランクケース左側のクラッチケーブルが繋がってるのがプッシュレバーで……ケース上部にある線がマーキングで……」って、全然ズレてんじゃん!
 


エンジン左側のクラッチプッシュレバー
このラインこの出っ張りが合ってないといけないんですが
 
 厳密に合っている必要はないのだが、それにしても「こんなにかよ!」と驚くほどにズレているマーキング。
 ということは、中のプッシュロッドの調整もズレているはずだ。

 なるほど、確かにマーキングが指定位置にくるよう調整すれば、ケーブルにもかなりの余裕が生まれそう。
 「そうか、クラッチ交換前にまずは確認が必要だな…」

  作業開始

 それではと作業にとりかかる。
 クラッチ内部の確認の為、クラッチケースを取り外すのだ。

 まずはブレーキペダルを取り外す。
 作業は難しくないが、割りピンの類が使われているのでちょい面倒だったりもする。


ブレーキペダルはマスタ側とフレームのネジ、それにスプリング2本を外します

 必要ないかもしれないが、念の為ステップも取り外す
 初めての作業の時、周囲がきれいになっているに越した事はないのだ。

 オイルを抜いてオイルフィルターを取り外す。
#さすがにV魔と違い「サイドスタンドを立てればオイルを抜かなくても大丈夫…」ということはない。

 また、オイルフィルターカバーは必ず取り外す必要がある。
 カバーのボルトの一部がクラッチケースを貫通して留まっているからだ。


中のフィルターも外した方が良さそうです

 さて、それではクラッチケースを開けるとしよう。

 ところで、セローのケースカバーを留めているネジは、なんと全てプラスネジである。
 う~ん、見るからにナメそうだよな…
#コストの関係だから仕方ないか

 大きいサイズのプラスネジの場合、Tレンチかインパクトドライバーを使うのが俺のお約束である。
 インパクトレンチといっても、もちろんまずは普通のドライバーのように使うのだ。「インパクト」として使うのはそれでも緩まなかった時だけである。


これががっちり食い込むんですよ。

 幸いな事に、プラスネジはそれほど固く締まっていなかった。
 「インパクト」しなければならなかったのは1箇所のみ。V魔同様この場所の締め付けトルクはさほどではないようだ。

 さて、ネジが全て外れたとはいえ、ガスケットで固まったケースを外すのは結構面倒な作業になる。

 ケース内側に何箇所かある「爪」に当て木をして、反対側からコンコンと叩く。
 慌てて傷つけると大変だから気長にやるとしよう。

 苦闘10分でケースが浮き、外れてくる。

 「うまく剥がせれば再使用…」と思っていたガスケットだが、当然のようにびりびりに千切れてしまった。
 ま、そう思い通りにはいかないよね。


ごた~いめ~ん【古】

 さぁて、それでは中を確認させていただくことにしましょうか。

 外れたクラッチケースは、内側、下の方に汚れがある。
 茶色い汚れはオイルが焼けたのか、それともこの前の砂の影響だろうか?
 とりあえずCRC-556を吹きかけ、ウエスで拭いて綺麗にしてやる。


なんですかねぇ?この辺りの汚れ

 次は先のプッシュロッドの調整。
 
 なるほど、プレッシャプレートの中央にナットとプラスネジがある。
 
 どれどれとナットを緩め、真ん中のプラスネジを回してみる。


こんな感じに調整します

 クランクケース反対(左)側のプッシュレバーポジションが変り、同時にクラッチレバーの握りしろが大きく変化する。

 「おお、こりゃ凄い。これなら遊び調整は問題なしだな」

 続いて内をバラす。

 ボルト4本&スプリングを外すとプレッシャプレートがフリーになる。
 中にOリングがあるので「引き抜く」感じに外してやる。

 
ボルトとスプリングを外すとプレッシャープレートが抜けます

 6枚あるクラッチプレート(銀色)、5枚のフリクションプレート(黒色)の形状はV-Maxと同様

 手にとって見ると、両プレートとも妙にざらざらしている。
 これもやはり先の砂だろうか?それともフリクションプレートの削りカスだろうか?

 特にクラッチプレートの汚れはひどい。
 錆ではないが、カス様のものが茶色く付着しているのだ。


なんか汚れているんですよ

 外したフリクションプレートの厚みを測る。
 
 本によれば、使用限界は2.8mm(新品は3.1~2.9mm)
 今の厚さは・・・うう、ぎりぎり2.8mmか。やはりこれは交換するとしよう。

 クラッチボスは、ンナーアウターとも段付きは感じられず
 クラッチの「切れ」は良かっただけに、これは予想通りという感じ。

 一通り納得したら、一旦全てを元へと戻す。
 交換作業はパーツを注文してからだ。
#毎度の事だけど、ガレージがあるとこういう中断ができていいよなぁ・・・




 後日、フリクションプレート6枚(2種:5枚+1枚)とガスケットが届いたら作業再開。


ちなみにトータル7000円弱でした。

 汚れていたクラッチプレートを新品にするかどうか最後まで悩んだが、今回は磨いて再使用することにする。
 「ま、これでダメならもう一度開けて交換してやればいいさ・・・」
#自分でやるとこういうのも気楽

 新品フリクションプレートは、使う前にまずオイル漬け
 焼き付き防止のためには必須の作業である。


もちろん新品オイルに漬けますよ

たっぷり浸した後に取り付ける。
表裏や合わせマークの指定はないが、一応刻印のある側を内側に統一して組んでみる。

クラッチプレートは、なにはともあれ汚れ落とし
CRC556でも落ちない汚れは紙やすりで。
あまり磨いて厚みが減ると逆効果なのでほどほどにっと。

こちらのプレートもたっぷりオイルに漬けてから組んでやる。
丸みのある面をエンジン側、というのはV-Maxと同様だ。

こうしてフリクションとクラッチを交互に組んでいく。
 
ちなみにセローファイルには「クラッチプレートの突起が重ならないように組む」とあったが、なぜかうちのクラッチにこの突起は見当たらなかった


1枚1枚丁寧に

フリクションプレートの3枚目は、ちょい巾の狭い特殊なプレート
同位置に「スプリング・クラッチボス」という波打った輪をセットしてやる(再使用)。

6枚目のフリクションプレートを組んだらプレッシャプレートをセット。
4本のネジ&スプリングは対角線的に締め込んでいく…というのはこの手のボルトのお約束だ。
#指定トルクが0.6kgと小さいのでオーバートルクに注意


プレート組み込み完了

 あらためて、プレッシャプレートの中央ナットとネジでプッシュロッドの位置調整を行う。
 
 クラッチレバーを握り、確認しながらの作業。
 もちろん次回以降の為に、クラッチレバーとケーブル中央の調整部分にはあらかじめ余裕を作っておく。
#今まではまったく余裕なし

 これで調整・交換は終了。んじゃケースを閉じますか。

 新品ガスケットにもたっぷりとオイルを塗ってからセットする。
 こうすることで密閉度は下がるが再使用しやすくなるのだ。
#なんとなくまた開ける気がするので(笑)
##もちろんこれは自己責任。

 昨夜、ちまちまと古いガスケットを剥がしておいたクラッチケースを装着。
 ゴムハンマーでコンコン叩いてあわせていく。


ぴったり合った・・・はず・・・

 プラスネジをセットし、対角線的に締めて行く。これまたオーバートルクに注意

 そういえばこのプラスネジ。長さが何種類もあって実にわかりにくい。
 外した時に位置をチェックしておくのはもちろん、仮留めしたときに長さを再確認する必要があるだろう。


一応こんな感じに並べてはおきましたが

 一通り納得できたらオイルフィルターセット。
 前回のお約束どおり、今回、新品へと交換する。

 時刻は既に深夜。眠い眼を擦りながらも忘れずにオイル投入する。

 ボルト余り無しを指差し確認、控えめにエンジン始動。
 250単気筒&純正マフラーだとご近所に遠慮しなくていいのがありがたい。

 じっと見ていたが、オイル漏れ無し。
 
 クラッチレバー位置微調整。
 ブレーキペダル、ステップ取り付け。
 ついでにブレーキランプスイッチ調整。
 おまけにエアフィルター新品交換

 よぉし!これで完成!
 
 明日はテスト走行&慣らしと洒落込むか!

  慣らし運転・・・のはずが?

 翌朝、快晴。
 「暖冬とはいえやっぱ朝は寒いねぇ…」とかなんとか考えながらエンジンを始動する。

 もう一度「オイル漏れなし」を確認してから出発する。
 
 市街地をうろうろと走る。

 クラッチの慣らしなので急加速は厳禁だ。もちろん半クラッチもできるだけ減らす。
 それでも、クラッチの繋がる位置が自分の好みになったのですこぶる走りやすい。

 レバーの軽さはあいかわらずだし、切れも繋がりも良い。
 「うむ、交換したのは正解だったな」と浮かれていたのだが・・・

 10kmほど走って小休止。
 やれやれとヘルメットを脱ぎバイクを降り・・・「あひゃっ!」
 
 エンジン下にぽつりぽつりと落ちるのは紛れもないオイル
 しかも走行中チェーンを伝ったらしく、リアタイヤのトレッド面にまで付いている!
 「うわっ!オイル漏れだっ!」

 慌てて工具を取り出してアンダーガードを取り外す。
 「ガスケットに何か噛んでたかなぁ、それとも合わせ面に傷でもついてたかなぁ・・・」

 だが、昨夜作業したクラッチケースの合わせ面は実に綺麗だった。
 取り付けしたままの状態でオイル漏れの気配はない。

 今オイルが垂れているのはエンジン左側。(チェーンも左)
 右側のケースから漏れたオイルが(サイドスタンドを立てているので)左側へ回ったと思っていたのだが違うのだろうか?

 ともあれ、このままでは仕方ないので、一路自宅へと戻る。

 時折停まってウエスでオイルを拭く。
 サーキットでなら確実に黒旗(オレンジボール)というか、強制退去させられる状況だ。
 「未舗装部分を選んで走っているとはいえ、道路汚してごめんねぇ・・・」

 自宅ガレージで再度のチェック。

 漏れている場所はやはりわからない。だがやはりクラッチ側ではないようだ

 「う~ん、他は触ってないし、昨日の今日だから俺が弄ったのが原因なのは間違いないはずなんだが・・・オイルのオーバーフローって事もないだろうし・・・オーバーフロー?!」

 慌ててオイル量を見直す。

 車体を垂直にしてレベル窓を・・・「うわっ!なんでこんなに入ってるんだよ!」

 レベル窓いっぱいのオイル。当然アッパーレベルのはるか上まで入っている。

 確かに昨夜オイルを入れた時「今日はずいぶん入るな」とは思ったのだ。
 だが、ケースを開けた事だし、そういうこともあるだろうなと気にしていなかったのだ。

 慌てて「ドレンボルト半開け」でオイルを抜く。
 レベル窓が通常になるまでに抜いた量は驚く無かれ200cc以上。これまで漏れた分を含めると相当な量が入っていたはずだ。

 「そうか、昨夜の気温だとオイルが固くなっていて、オイルパンに落ちるまで時間がかかっていたのか。オイルレベルの確認、さっくりやっちゃってたしなぁ・・・」

 ところで、原因はオイルのオーバーフローだとして、気になるのは「どこから」漏れたのか?という点。
 こういう時もブローバイに回るのだろうか?ドレンから出てた形跡なかったしな。

 ともあれ、俺の作業が原因だったのは間違いない。
 自分への罰として今日の朝飯は抜きとする。

 周囲のオイルを綺麗に拭いてエンジン再始動。
 うむ、大丈夫そう。んじゃ再テストっと。

 つらつらと走り出す。

 気持ち、先程よりエンジンの回りが軽い気がする。
 そりゃまぁオイルの抵抗が減ればエンジンもよく回るよな。

 10kmほど走って小休止。
 やれやれとヘルメットを脱ぎバイクを降り・・・「あひゃっ!」(再)
 
 エンジン下にぽつりぽつりと落ちるのは紛れもないオイル(再)
 「うわっ!オイル漏れだっ!」(再)

 う~ん、まだ止まっていなかったか・・・

 だが今回は「リアタイヤを濡らす」程ではない。
 せいぜい「チェーンがべたべたになった」程度である。

 「・・・チェーン?」

 もう一度自宅へと戻り、左側のスプロケットカバーを外す。

 ドライブスプロケのロックナットを外して、チェーンごとスプロケを浮かしてどけてみる。すると・・・「うわっ!これかよっ!」

 ドライブスプロケの内側。シャフトの周りのオイルシールがびろんと見事に外側に飛び出していた。
 これでは走る(ドライブスプロケが回る)毎にオイルが漏れるのは仕方がない。

 「お前か!お前が原因かっ!」と一通り叱った後、元通り押し込んでやる。


ドライバの先が問題のオイルシール
これは押し込んだ後の画像

 ★

 素人考えだが、「オイル量多い」→「ケース内圧力上昇」→「オイルシール飛び出る」のコンボだったのではないだろうか。

 また「押し込めた」ということは、今後「また出てくる」ということも考えられる。
 早めに交換してやる必要があるだろう。
※交換手順も調べておかないとな・・・

 ともあれ、俺の作業が原因だったのは間違いない。(再)
 自分への罰として今日の昼飯も抜きとする。

 ★

 再々テストへ出発。

 今度はさすがに問題なし。
 
 トータル200kmほどのテスト&慣らし走行。
 後半で5,6速での全開走行も試してみたが滑りは皆無。
 どうやらメインのクラッチ交換自体は無問題だったようだ。

 ★

 いや、それにしても、自分で作業してバイクが直るというのはもちろん楽しい事だけど、トラブルの原因を自分で究明できたっていうのもなかなか嬉しいものだねぇ。
 
#いや、そうでも思わないとさ・・・(笑)
 



Copyright 2007 Akira
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