(前回までのあらすじ)
怪人ダブアールを倒し、悪の組織本部へと乗り込んだセロウ。そしてその前に立ちはだかる新たなる怪人。その姿を見たセロウが叫ぶ!「お前は!」
それはなんと、幼い頃生き別れた弟、フィセロの変わり果てた姿だったのだ……
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■ お約束出現
「動いた動いたぁー」と歓喜の舞いを舞っているまさにその最中。
ふっとエンジンが止まる。
特に異音も衝撃もない。普通のエンストだ。
「まぁ組み立て時のオイルも残ってるだろうし」とセルを回す…回す…回す……エンジンかからず。
「あれ?どうしたんだ?」
何度やっても同じ。というか、いつもの「かかる雰囲気」がまったくない。
セルの回る音が空しく響くのみ。それも「妙に軽く」だ。
ううむと考える。が、思いつくことは何も無い。
そう、何しろ一度はきちんとエンジンがかかったのだから。
呆然と見上げる時計は既に夜半過ぎ。仕方ない、明日ゆっくり考えるか。
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あけて翌日、状況変わらず。
昨夜、ベッドへ入ってからも一生懸命考えたのだが何も思いつかなかった。
マニュアルは読み込んだし、パーツリストも確認した。
それにもともとそんな微妙な調整を必要とする作業ではないのだ。
※言い換えると、失敗してもそれなりにエンジンはかかるはず。
本来であれば、一からやりなおすべきなのだろう。
だが今回はもう少し慎重に考えたい。重作業だし、ガスケットの類に代えはないのだから。
よしと腰をあげる。
まずは基本にかえって現状調査をしてみよう。
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点火プラグ確認。きっちり火は飛んでいる。
プラグホールを指を押さえると、圧縮が掛かっているのがわかる。
圧の強さはともかくとして、圧縮あり&ピストンの動いている(焼きついていない)事を確認。
マフラーからの排気を確認。圧縮があるのだから当然か。
キャブレター。
エアクリボックス内のインテークを手で塞いでみる。あれ、なんか抵抗ないな。
ライトで照らすとキャブのジェットニードルがかすかに見える。そのままセルを回してみるが、負圧スロットルのニードルがぴくりともしない。
むー、これはもしかしてキャブから吸気されていないのか?
もう一度プラグを外し、プラグホールに鼻を近づける。
ポフポフと出てくる空気は…あ、全然ガソリンの匂いがしないぞ?
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腕を組んで考える。
・ピストンは上下している。
・圧縮もそれなりにある。
・マフラーからも排気されている。
・なのにキャブから吸気されていない。
ってことは……あ、バルブが動いていないのか?
バルブが中途半端に開いた状態で固定されているならこの現象は理解できる。
となれば確認するのは……カムスプロケット!
カムチェーンカバーを開け、中を確認する。
うーん、ちゃんとチェーンは架かってるな。クランク側で外れているかも?と思ってたのだけど。
クランクケースのカバーを開け、Tレンチをセット。
昨日同様、クランクを左回りに回してみる。
当然、チェーンで繋がれたスプロケも回る、回る、回る……って、「固定されて無いじゃんこれ!」
きちんと回るカムスプロケット。
しかしそれは軸から浮き、空回りしていたのだ。
どうやら、スプロケットの固定ボルトの本締めを忘れていたようである。
「この愚か者がぁっ!」
セローのマスタファイルにも「ここはきちんと締めとけよ」とわざわざ書かれている重要項目。
締め付けトルクも6kgと大きく、万が一外れるとエンジンへのダメージは極大なのだ。
※というかエンジン壊れるだろうな…
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もう一度設定をやり直す。
タンクを外し、キャブを外し、カムチェーンテンショナーを外す。
※チェーンを架け替えるには弛みが必要→カムチェーンテンショナーを外す必要あり→キャブを外す必要あり→タンクを…
カムの合いマークをきっちり合わせてボルト仮留め。
チェーンテンショナを取り付けてから、今度は忘れずにボルト本締め。
クランクをTレンチで固定しておいてメガネレンチというのは外す時と一緒だ。
カバー付けてキャブ付けてタンク付けて。
プラグを外したままセルを回し、臭いを嗅ぐ。よーし、ガス臭いぞ。
プラグを戻す。
セルオン。
明らかにさっきまでよりセルの回りが重いが、それはきっちり負圧がかかっている証拠だろう。
3秒のクランキングでエンジン始動!うひー、やったー!
トタタタタ…とアイドリングするエンジン。
あれこれ観察するがとりあえずオイル漏れ等はなさそう。まぁこれは実走してみないと本当のところはわからない。
マフラーからの排気も綺麗なもの。
エンジンを開けた後は内部に残ったオイルが燃えて白煙がでる事が多いそうなのだが、今回それは無さそうだ。
異音も振動もなし。
慣らしを兼ねてたっぷり5分のアイドリング中、綺麗に回り続けてくれた。
あー良かった。よし、次は実走だ。
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後日夜。慣らしを兼ねた試走に出る。
慣らしの為には相応の距離を走る必要があるだろう。
※ピストンリングのみの交換なので、新車の慣らし程は必要ないが
だが試走でもあるので、遠いところや人跡未踏の地(どこだよ)へ行ってしまうといざと言う時の対処が大変だ。
まぁ夜の市内をぐるぐる回るあたりが順当な方法だろう。
10月末の北関東の夜は、秋とはいえ相応に寒い。
服装はもちろん冬仕様である。
長めのアイドリングの最中確認するが、やはりオイル漏れ等はなさそうだ。
そろそろと出発。
基本は低回転。だが高いギアで無理やり走ることは控えたい。結果、制限速度以下でぽたぽたと走ることになる。
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そのとおり、ぽたぽたと走る。
アイドリングは相変わらず安定している。加速もそれなり。
特に異常は感じられない。「だけどなー…」
今一つピンとこない。
まったりしてるというかもっさりしているというか、以前のような加速時のパパパパ…という歯切れの良い感じが無いのだ。
100kmほど走り自宅へ。
確認するがオイル漏れ等なし。
腕組みして考える。
これでOKとしてもよいのだがいま一つしっくりこない。
この原因がエンジンやピストンであれば仕方ないとも言えるのだが…「バルタイだけもういちど見直そうか」
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カムスプロケットカバーとクランクケースの除き窓を開ける。
エンジンを弄る前と同じ位置になっていることを確認…って、「あれ、ちょいズレしてないか?」
覗き窓の3番目の線に合わせると、スプロケのマークが若干左を向く。
マークを頂上に合わせると、覗き窓は3番目と2番目の間辺りに…
「1コマか2コマずれてるのかな?」
タンクを外し、キャブを回し(←外すのが面倒になった)、カムチェーンテンショナを外す。
スプロケのボルトを緩め、チェーンを掛けなおす。
作業前に撮っておいた画像と同じになるように…
全部戻してエンジン再始動。
アイドリング変わらず。だが乗り出すと「お~、直ってる直ってる!」
セロー独特の歯切れの良い感触が戻っていた。
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良かった良かったとガレージへ戻る。
エンジンをもう一度観察。
「オイル漏れも排気漏れもなさそうだし、これでやっと完成……あれ?」
#↑続くのかよっ!(再)