■ スーパースポーツ車ならわかるんですけどね
新型VMAXの交換パーツに「R-ECU」というものがある。
ECUというのはいわゆる「制御コンピュータユニット」のことであり、もちろん標準でも装備されている。
R-ECUというのはそのレーシング版の事だ。
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もちろん純粋なレーシング仕様なので、速度リミッターが解除されるだけではない。
インジェクションの燃料噴出量もタイミングも点火時期も全て変更される。(と思う)
具体的にどう変更されるのかはブラックボックスだが、より「高出力向け」になることは間違いないだろう。
事実、アメリカ仕様のVMAXにR-ECUを入れると、結構とんでもないことになるらしいのだ。
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さて、ではそんなR-ECUを日本国内仕様に装着するとどうなるだろう?…というのは国内仕様オーナーであれば誰しも気になる点なのだけれど、実は様々な問題がある。
配線が異なる云々と共に、排気系の違いがあるのだ。
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ここにも書いたし、数々のサイトでも実証されているとおり、日本仕様のVMAXは排気系が絞られている。
具体的には排気チャンバーとサイレンサー。
内部の仕様がアメリカ版(海外版)と異なり、これによって現時点で世界一厳しい排ガス・音量規制をクリアしているのだ。
※結果、最高出力も抑えられている。
というわけで、普通に考えるとECU(エンジン単体の制御系)のみをパワーアップ(高出力型に)してもあまり意味は無い。
エンジンは、見合う吸気と排気が揃って初めてパワーとして使えるようになるからだ。
※もちろん実際の走行に関しては車体とか足回りとかブレーキとかへの対応も必要だがここでは割愛。
しかも、給排気に見合わないエンジンの仕様変更は危険でさえある。
吸うべき空気が吸えない・出すべきガスが出せないと、エンジンブローの危険性さえゼロではない。
「エンジン出力アップは給排気とセットで」は改造の原則ともいえるのだ。
■ もっとパワーが欲しい人もいるのでしょうが
さて、これまで何度も書いてきたとおり、俺には現在の日本仕様(公称151PS)以上のパワーは必要ない。
俺が主として楽しんで走るのは、田舎の狭い峠道。
そこでは国内仕様だろうがなんだろうが、1680ccのエンジンをパワーバンドに突っ込んだまま走る機会など「絶対無い!」と断言してもいい。
2~5000rpmくらいの範囲できちんとトルクが出ればそれで充分。
ピックアップ(レスポンス)は欲しいが、あまりダイレクトだと心臓に悪い(例:隼)
その意味でノーマルVMAXの「巡航だとちょいダル、でも開けるととんでもなく凄い」はかなり乗り易いし楽しい仕様なのだ。
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しかしながら、この車両で180km/h以上の世界を見てみたいのもまた事実だ。
隼で「超高速域の面白さ」を知ってしまったからというのもあるが、VMAXの常識外に高剛性の車体が「上の領域」でどう動くかも試してみたくて仕方が無い。
そしてこのV4エンジンは高回転域でどういった雰囲気になるのか、YCC-Iがフル稼働するとどんな感触なのか、にもとても興味がある。
※YCC-I(可変インテーク)は低いギアでは動作も何も感じ取れなくて…というのは別コンテンツのとおり。
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もちろん、速度を出したいだけならば、単純に速度リミッターを解除すれば良い。
現在、複数の会社から、新型VMAX用の速度リミッターカットが売り出されている。
だが、その価格はなんと4万円。
どういう構造なのかはわからないが、同じ機能の他車用に比べ妙に高額なのだ。
価値のあるもの(もしくは掛けられた手間)に費用を出すのはやぶさかではない。
だが「VMAXを買える人ならこれくらい出すんじゃない?」的に付けられた価格には、俺の中の天邪鬼が冗談ではないと騒ぎ出す。
それなら(例え倍以上の金額でも)R-ECUを買う方が俺の中では「正解」なのだ。
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ここで再度「R-ECU」という言葉が出てくると、思い出さなければならないことがある。
それは先の「エンジン出力アップは給排気とセットで」だ。
いろいろなサイトやいろいろな筋(謎)にそれとなくお聞きしたところ、単純な速度リミッターカットならいざしらず、R-ECUまで考慮するなら国内仕様ノーマル排気はかなり厳いのではないか?とのことだった。
只でさえ絞られている国内仕様のチャンバー・サイレンサー。
そこへ大幅なパワーアップによる排圧の上昇が加わる事になる。
堅牢な純正品だから壊れることはないだろうが、あちらこちらに「焼け」や「漏れ」が出る可能性が残る。
長期間の使用を考えると、R-ECUを入れるのであればやはりなんらかの処理をしたいところだ。
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「処理をする」とはいえ、排気系を交換してしまうのはあまりにももったいない話だと思う。
サイレンサーに関しては、これまで散々書いてきているとおり、現時点で純正以上に格好良いものが見あたらない。
#もちろん俺基準・俺目線での話
そしてチャンバーは、うかつに外して普通のパイプに交換したりすると(性能ダウンだけでなく)とんでもない爆音になると言う。
これはなんとしても避けたいところだ。この車両で反社会的な爆音を立てるなど論外だからだ。
外観を今のままとしたい場合、サイレンサーとチャンバーの内部をアメリカ版と同様の仕様へ加工させる手がある。
※現在複数の加工請け負いが存在する。
もしくはアメリカからあちら仕様の純正マフラーを輸入してしまう手もある。
もちろん純正サイレンサーにそれほど思い入れがないならば、「チャンバーは加工、サイレンサーは市販品に」という複合技もあるだろう。
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いずれにせよ、これらの処理にはかなりの費用がかかる。
単なる「上の領域を試したい」への対価として妥当かどうかは正直微妙なところだ。
「モアパワーが絶対必要!」「この車両にかかる費用は惜しまない」
そう言い切れる・割り切れる人にはあまり問題のない話なのだろうけれど。
■ 総括として
…というわけで、モアパワーに対する俺的総括…と、ちょっと違う側面からの考察を。
R-ECU云々から始った「国内VMAXのモアパワーについて」(あえて「フルパワー」とは書かなかった)なのだけれど、事の是非や手法はさておき、一番重要なのはオーナー意図だろう。
つまり「あなたは何がしたくてモアパワーを要求するのか?」という事だ。
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理由は「出力一番、馬力命」でもいいし「純正マフラー嫌い、変えたい」でもいい。
「人とは違ったバイクに乗りたい」というのもアリだと思う。
※「音がデカくなりゃぁいいんだよ」は論外として。
目的さえはっきりとしていれば、それを満足させる手段は必ず見つかるものだ。
そしてそれにかかる費用と効果を自分なりに判断することもできるのだ。
怖いのは「皆がやっているから俺も」的な発想だ。
「やってはみたが良いのか悪いのかわからない」「どこまでやっても満足できない」という一番つまらない結果になりがちだからだ。
更に改造には、必ず何かしらのデメリット(金銭的な部分を含む)が存在する。
自分が求めたメリットを得られた上でのデメリットなら我慢・納得もできるが、そうでない場合はストレスが溜まるだけだろう。
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新型VMAXはノーマルの車体やエンジンの欠点が少ない分、「改造する目的は何か?」がより問われるような気がしている。
だから、未だ「自分の目指す場所」がはっきりしていないならば、改造には手をつけないほうが良いと思う。
なにしろVMAXは、ノーマルでもとても魅力的なバイクなのだから。
「ま、とにかくそう簡単にあちこち弄っちゃもったいないですよ。こんな楽しいオモチャはできるだけ長く楽しまないとね」(笑)
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