■ 発生:なんかV魔と似たような…
某日、セローでツーリング。
前を行く某氏を追いかけ、登る舗装の峠道。
ヘアピンコーナーを立ち上がってスロットルオン・・・という瞬間、何の前触れもなく、ふいにエンジンが停止してしまう。
まったく反応のなくなったスロットルに戸惑いながら、車体を惰性で路肩へと寄せる。
メーターパネル異常なし、ライト・ウインカー正常動作、ガソリンは満タンに近い。
深呼吸の後、セルオン。
「キュルキュルキュルキュル・・・」
セルモーターは元気に回る。だがエンジンがかからない。
「嫌な止まりかただったしな・・・こりゃぁ電気系か?」
なんとなくだが、V-Maxのあの時やこの時と同じような気配がする。
確認すると、やはりプラグに火が来ていない。ふぅん、そりゃエンジンがかからないわけだわ。
まぁこのセローについては、購入した当初から多少のトラブルは覚悟済み。
電気系のチェックを兼ねていろいろやってみるとしよう。
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日を改めて、まずは原因究明にとりかかる。
またまた外装を全部引っぺがしたら、さて、チェックを始めてみるか。
<現状>
■メインスイッチオンで、メーターパネルの表示、各種ランプ等は全て正常動作する。 ■セルオンで、セルモーターは元気に回る。 ■キルスイッチ、クラッチスイッチ、ニュートラルスイッチは正常動作しているように思える。
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整備マニュアル(但し旧型の英語版…orz)によれば、最初のチェックポイントはやはり各種スイッチ(コネクタ)の短絡(ショート・断線)
しかし、キルスイッチやクラッチスイッチ、ニュートラルセンサーの異常・短絡であれば、そもそもセルモーターが回らないはずだ。
直接の原因は「セルは回るが火が飛ばない」事だとわかっているので、まずはここからたどってみよう。
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ともかくはプラグとプラグキャップ。
プラグコードからキャップを(捩って)外し、コードの先端を少し切り、端子を出す。
これをシリンダヘッドに近づけて、セルを回したときに火花が出れば、原因は単純にプラグかキャップなのだが・・・火花飛ばず。
※実はプラグとキャップに異常がないのは他車に取り付けて既に確認済み。
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次、電気系コネクタの接触確認。
ハーネス上のコネクタを全て外し、拭き、コンタクトスプレーを吹き、差し直してやる。
ホコリは酷いが錆は少ないうちのセロー。
コネクタの見た目もそう悪い状態ではなかった。
抜き差しの後、先のプラグコードでチェック。状態変らず。
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次、イグニッションコイル。
さすがにこれはブラックボックスなので、テスターで抵抗を測るくらいしかできない。
旧英語版マニュアルをひっくり返して測定方法と正常値を探し出す。
※正常値はここにはあえて記載しません。
少なくとも断線はしてません
一次側、二次側ともに、測定値は正常値を少しだけ外れている。
一般的にこの手の抵抗は「桁が違うくらいでなければ大丈夫」と言われているらしい。
まぁ1個三千円程度らしいのでとりあえず交換をするとして、直接の原因は他にあるんだろうな・・・
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さぁて困った。
この後は、ピックアップコイル、チャージコイル、CDI(イグナイタ)あたりのチェックになる。
だが、先に書いたように、今手元にあるマニュアルはうちの型(4JG6)用ではないのだ。
以前書いたとおり、セローには山ほど型式・年式がある。
共通仕様も多いが、個別の仕様も多数ある。
特に電気系は型式により大幅に変わっており、単純に他型式の値を使用というわけにはいかない。
それどころか、測定方法そのものも違っていたりするのだ。
※先のイグニッションコイルの型番(パーツNO)は昔から変わっていないので、旧版の値を使っても大丈夫と判断。
仕方が無い、きちんとした測定方法と測定値がわかるまでは、とりあえずイグニッションコイルを交換して様子を見るか。
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イグニッションコイルは3500円ほど。
ついでにと、NGKのプラグ(無印)とプラグキャップも購入する。
純正イグニッションコイルはケーブル付きである。というか、ケーブルは接着されていて分離することはできない。
不便のような気もするが、パーツの価格とオフ車の使われ方を考えると、これはこれで正解のような気もする。
キャップはやっぱり実績あるものがいいよねぇ
新しいコイルを取り付け、アースを取る。
セルを回すと、コード先端とシリンダヘッドの間に火花が・・・よし、飛んだ!
バチバチと音を立てて元気な火花が散っている。
「よかった、これが原因だったのか。他だとチェックに時間も費用もかかるしな・・・」まではよかったのだが。
ふと嫌な予感がしたので、古いイグニッションコイルに付け替えてみる。
セルオン、すると・・・これまた元気な火花がバチバチと飛ぶ。
「うわっ、これじゃないっ!自然治癒かよっ!」
新旧どちらでも同じということは他に原因があるということ。
そして何故か勝手に復活したということ。
そしてそして、今後また再発する可能性があるということである。
「あ~、よりによって一番ややこしい事になっちまったか・・・」
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ともあれ、もう一度新しいイグニッションコイルに付け直し、配線をもう一度念入りに確認。
外装一式を戻してエンジン始動。
何事も無かったかのようにぱらんぱらんと機嫌よくアイドリングするセロー。
近所を一回りするテスト走行も快調そのものだ。
さぁて、どうしたものだろう。
電気系の原因を究明するには、現象が出ている時にチェックするしかない。
だが、現象が出たあと、今回のように自然治癒する保障はない。
「また出先で停まられると困るよなぁ・・・」
■ チェック2
…というわけで、やっぱり直ってなかったセローの電気系。
日本語マニュアルも手に入ったところだし、もう一度一からチェックしてやるとしよう。
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さて、そのマニュアルによれば、プラグに火が飛ばない(弱い)=「点火系」のチェック手順は下記のとおり
1.メインスイッチの導通
2.キルスイッチの導通
3.イグニッションコイル・プラグキャップ・プラグの抵抗値
4.ピックアップコイル(パルサ・コイル)の抵抗値
5.チャージコイル抵抗値
6.全部ダメならCDI(イグナイタ)
ふ~ん、配線図を見る限りセルが回るのだから1.2.はチェックしなくていいのでは?とも思うのだけれど…何か理由があるのかな?
<余談>
セローのような「キックでもかかるエンジン」(初期型では標準、後期型でもオプション設定あり)の場合、「充電系」と「点火系」は別になっているのだそうだ。
そしてこれを利用したのが、いわゆる「スカ・チューン」である。
今回のトラブルで俺が疑うべきなのはこの「点火系」。 「セルが元気よく回る」「バッテリーは快調」を考えると「充電系」は正常そうだ。
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テスター片手に、指定された箇所の抵抗・導通を測る。
1.OK
2.OK、ついでに配線再確認
3.全部新品なのでもちろんOK
4.きっちり正常範囲
5.こちらも正常範囲
全て正常。
ま、今は症状が出ていないからあたりまえといえばあたりまえだよな…
となると、あと自分で(目視で)確認できるのはコイルくらいしかない。
とりあえず開けて見てみるか。
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ますはオイルを抜く。
う~ん、距離走ってないんだがなんか汚れてるな。
容量の少ないオフ車はこういうものなのだろうか?それとも他に何か要因があるのだろうか?
#さすがに初回のような異物の混入はない(笑)
なんか黒いんだよなぁ・・・
左側クランクケースカバーを外す。
こちらは右側とは異なり、あらかじめ外さないと干渉するもの(ステップとか)が無いので楽だ。
使われているのは例によってプラスネジ
これまた例によって締め付けトルクはさほどでなし。
相変わらず長さはいろいろだ。いつものとおりきちんと並べておくとしよう。
磁石が付いているのでなかなか外れません
配線を外し、カバーを取り外す。
うむ、外見はなんともないな。
コイル内で断線・ショートすると黒く焦げている事が多いらしいのだが、そんな気配はない。
チャージコイルは綺麗なもの。ピックアップコイルにも異常は見られない。
配線が噛んでいたり切れかかっている部分もなさそうだ。
#そりゃまぁ抵抗値が正常だからねぇ
赤矢印の先がピックアップコイル
「金属片でも噛んでショートしていたのでは?」とも考えていたのだが見当違いっぽい。
仕方ない、とりあえず洗浄だけして戻しておくとしよう。
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一通り元へ戻したら、エンジンの始動確認。
しばらくぱらぱらアイドリングさせた後、何気にスロットルを煽ると回転が付いてこない。
「ん?」と何度か試すうち、唐突にエンスト。調べるとプラグに火が飛んでいない。
「やった~!現象再発だ~!今ならチェックできるぞ~!」と(トラブルだってのに)嬉々としてテスターを取りに走る。
わくわくしながらもう一度セルを…あ、直っちゃってるぅ……orz
くっそ~、現象が気まぐれすぎるなぁ
でもこうなると、やっぱり怪しいのはCDIか…
■ チェック3
…というわけで、なんとかCDIを手に入れる。
とにかくこのCDI(イグナイタ)というパーツ、めったやたらに高価なのだ。
以前換えたV-Maxの場合だと、新品価格はなんと9万円。
さすがにセロー用はそこまでしないが、それでも新品は1万5千円もするのだ!
今回入手したのは当然のように中古品。
「電気系パーツに中古は使わない」がポリシーの俺とはいえ、「疑わしい」だけで交換するパーツにそれだけの出資はさすがにできなかった。
左:旧、右:新(中古だけど)
先にも書いたが、セローの電気系には山ほど種類がある。
一見同じようなパーツでも、微妙に仕様が異なっていたりするのだ。
うちの225WE、4JG6のCDIの場合、キモになるのは表示されている「4JG-10」の文字。
同じ4JGでも1~4と5~6では結構大きな違いがあるらしい。
交換作業自体はさくさくと終了
始動確認、試乗もこれまや問題なし。
心持ちトルクが上がっている気がしないでもないような・・・ま、これはプラシーボか、同時にOHしておいたキャブのせいだろう。
あとはとにかく乗ってみるしかないな。
もしこれでダメなら、あとはピックアップコイルを新品にしてみるくらいしかないよなぁ・・・
■ チェック4
後日、テストを兼ねて近所までお買い物。
とぽとぽ走って買い物を済ませ、どれ帰るかとセルを、「きゅるきゅるきゅるきゅる・・・」
現象再発ぅ~
確認すると、例によって火が飛んでいない。
「くそぉ、結局CDIじゃなかったのかよっ!」
しかし、これはチェックする良い機会でもある。
幸い自宅までは1kmほど。この場で変にいじるのはやめて家まで押していくとしよう。
乾燥で100kgほどしかなく、タイヤも細いセローは押して歩くのも楽である。
今日は天気もいいし風も気持ち良い、散歩だと思えばなんの苦労も無い。唯一つ気になるのは…ご近所さんからの視線。
「いえいえ、別に故障とかってわけじゃないんですよ、はっはっは」(←故障です)
「考えてみれば乾燥200kgのバイクを奥多摩から練馬まで押すってのは人間業じゃないよな…」とかなんとか考えながら(謎)首尾よくガレージへたどり着く。さて、チェック開始だ。
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<今更役割確認>
・チャージコイル:点火用にCDIへ電流を送る。
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まずは火花を再確認。よし、相変わらず飛んでいない。
・チャージコイル抵抗=正常値(2箇所で計測)
・ピックアップコイル抵抗=正常値
ちなみにピックアップ配線にテスターを付けたままセルを回すと、それなりに電圧が変化する。
・キルスイッチ周り導通確認
・メインスイッチ周り導通確認
・メインスイッチからCDIへの導通確認
・CDIからイグニッションコイルへの導通確認
「畜生、同じじゃねぇか…」
状態は動いていた時と同じではあるのだが、がんとして火は飛ばない。
キャップを外し、プラグコードで確認すると、ごく弱い火花が散っているようないないような・・・
「くそぉ、よくわからんなぁ…ま、他に乗るバイクが無いわけじゃなし、慌てず気長にチェックするとしよう」
<余談>
当然、原因究明にむけてネットを検索しまくっているわけだが(笑)似たようなトラブルを抱えたセロー乗りは結構多いらしい。 火花が飛ばない、弱い、突然死、等々 但し、さすがに皆「関連パーツ一式交換」で対応している様子。 そりゃまぁ怪しいところ全部交換すれば直るんだろうけどさぁ…
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のんびり構えていた数日後。
唐突にオフロードツーリングの話が持ち上がる。
「うう、セローで行きたいよぉ、走りたいよぉ……でもじっくり調べてたら間に合わないし、仕方ない(?)パーツ交換するかぁ」
最後の砦「ステータ・アセンブリ(ステータコイル、チャージコイルのセット)」と「パルサ・コイル(ピックアップコイル)」を新品に交換することにしよう。
ちなみにこれらのパーツのお値段は…トータル2マン4センエン!
くそぉ、これで直らなかったら泣くからな、俺…
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セローからもう一度オイルを抜き、カバーを外す。
#エンジンオイルが1Lってのは…(略)
外れたカバーの中にしまわれたコイル類。
外すのに特に面倒な部分はなく、ボルトを緩めるだけ…って、なんでこんなに固いんだこのボルト?
肝心のコイルを留めている部分ではなく、配線をカバーしているステーを留めているボルトが猛烈に固い。
いや、固いというかこれは…「ネジロックされてるな」
例によってタガネ+ハンマーで緩めたのだが、その後もぐにゅぐにゅぎしぎしした感じが続くのだ。
タガネアタックで潰れたボルトヘッドをバイスクリップで咥えて強引に回す。
それにしてもなんでこんなボルトがネジロックされてるんだろう?中で外れてローターに引っかかると大事だからかな?
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ボルトが外れたら、コイル一式を取り外す。
並べてみると、交換する新品はとても白い。
パーツNOは変って無いはずだし、新品が白いんじゃなく、今のが黄色(茶色)になりすぎてるのかも?
なんでこんなに色が違うんだか
ピックアップもこの違い
そういえば、ローターの内側に一部錆があったようなないような。
経年劣化なのか、それともクラッチ側同様これまでの「走り」(?)の影響なのか。
「そのうち機会があったら腰下まで全バラしてみようかなぁ…」
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新品パーツの取り付けは問題なし。
先のボルトはたっぷりトルクをかけて締めておく。
セット完了
オイルを入れて、ぱんぱんと手を叩いて一礼。セルオンで火花が…よし、OK!飛んだ!
外装その他を全部戻してあらためてエンジン始動。よ~し、問題なく動くぞぉ…
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さて、一応エンジンがかかるようになったとは言うものの、これで「完治」したかどうかは定かではない。これまでの例もあることだし。
もし直ったとすれば、原因はチャージコイルかピックアップだったということ。
万が一現象が再発すれば、原因は不明。
これ以上交換できるパーツはないので、あとは配線を1本1本見ていくか、ハーネスごと代えるしかないだろう。
最終結果がでる(最終的に判断できる)までにはもう少し時間がかかりそう。でも…
…とにかくツーリングの途中では止まるなよ、セロー(笑)
■ 修理完了
某日、セローで林道ツーリング。
トラブル中なのにツーリングとは一見無謀のようだが、さすがに前日夜にテスト走行は済ませてある(笑)
で、結論から言うと「完治」としていいと思う。
2日間かけて600km弱走ったが、エンジンは絶好調だった。
どれくらい好調だったかというと、20psのセローがフルサイズハイパワー軍団になんとか付いていくことができた程である。
・・・となると原因は、先に書いたようにチャージコイルかピックアップコイルだったのだろう。
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そしてコンテンツをまとめるにあたり、整備中のメモを見直していて面白い事に気が付いた。
原因調査中、断線の確認の為、めぼしい箇所の抵抗(導通)を測ってあった。
その中で、クランクケース左から出ている下記配線3種類(カプラ3つ)
1.ステータコイル(充電用)からの3線のカプラ
2.チャージコイル(点火用)からの3線のカプラ
3.ピックアップコイル(点火用)からの2線のカプラ
※他にグランド(アース)用が2線あるが省略。
・・・のうち、1と3は完全に閉鎖系でグランド(バッテリーのマイナス端子)との導通はなし。
しかし、何故か2だけは、中の3線全てにグランドとの導通があった(抵抗値が検出された)のだ。
この時は、特にマニュアルに記載されていなかった部分だけに「そういうものか」としか思わなかったのだが。
新しいアッセンブリに交換し、正常動作した今、同じ箇所を再度チェックしてみると・・・見事に導通なし。
どうやらこれが直接の原因のような気がしてる。
つまり、チャージコイルの何処かがグランド(=車体)とショートしていたということ。
チャージコイル内での抵抗が正常値でも、途中にショートがあったとすれば発電量は大幅に下がるはず。
結果、CDIに送られる電流が減り、イグニッションの一次側が減り、プラグに火が飛ばない(弱い)となったのではないだろうか?
いや、あくまでも素人の想像でしかないのだけれど。
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費用も期間もかかってしまった今回のトラブルだが、逆に考えればこれでしばらく電装系の心配をしなくて済むだろう。
万が一別のトラブルが出ても、今回の経験があるので、次はもう少し手順よくトラブルシュートが出来るような気もしている。
(多分)正常なのに交換してしまったイグニッション、CDI、ピックアップは予備に取っておくとして、壊れていた(と思われる)チャージコイルは、分解してどこがショートしていたのか確認してみようかな?
※同様の現象が起きているとご連絡頂いた某氏、参考になりました、ありがとうございました。
<了>